小説『刺竹』は 共産党員になった青年を妻が自首させる話である。
主人公の青年は銀行の研究員、鄭垂青(テイスイセイ)。
先輩の研究員、余秋陽(ヨシュウヨウ)らと盛り場で飲んだ翌日、
銀行に保安司令部が入り、余が連行されたことを知る。

鄭が身の危険を感じ、逃げる。
逃げ込んだ先は、母親の唯一の女友達であった尼の住処で
竹藪に囲まれた草庵 である。

そこの身を潜めていたところ、
鄭の妻、錦霞(キンカ)がその場所を突き止め訪ねてくる。
妻は前もって、夫の勤務先の理事長で政治力のある人物に面談しており、
自首すれば、相応の措置を講じるとの了解を得ている。

妻、錦霞は、夫にそのことを伝え、夫に自首するよう訴え、
鄭垂青は不承不承、妻の進言を受け入れる。

この小説は、邱永漢の友人の身の上に実際に起こったことや 
自身の心境や身辺を織り込んでいる。
檀一雄氏はが「この一作だけで、小説家としての才能を認める」
激賞し、著者は、のちに、
「何度読み返してみてもその度に胸が痛くなる」と述懐している。