小説集『刺竹』に続いて、小説集「惜別亭」が昭和33年11月に

小説集「惜別亭」には「東洋航路」、「惜別亭」、
「南京裏通り」、「海の口紅」、「傘の中の女」、
「マネキン少女」、「香港に死す」の七作品が収録されました。
 

「東洋航路」は眉目秀麗の日本の美少年に英国人の老船長が恋し、
陶酔の中で死んでいく話です。
 

「惜別亭」は「シンガポールで、死人が出ると、
家が貸しにくくなるので、貧乏人は死にそうになると、
家主から追いたてをくらう。
そういう貧乏人が死ぬための家をつくった人がいて
結構繁盛しているという記事を香港の新聞で読み、
それがヒントになってできあがった小説」
(『邱永漢自選集第3・オトコをやめる話』)です。
 

「南京裏通り」は横浜の中華街でバーを経営している
シンガポール生まれの女が、
戦争中に同棲していた日本兵のあとを追って
北海道の旭川に着き、男の納屋に住みついて、
炭焼きと養豚をやって金を稼ぎ、金を持って男のもとを去り、
南京街の裏通りのバーにつとめているうちに、
バーの経営者から月賦でバーを買いとる話です。
 

「海の口紅」は台湾のはずれにある島に住む少女の身に
起こった悲しい物語です。
 

「傘の中の女」は「広東地方に伝わる民話から
ヒントを得たもので、女の幽霊が破れ傘にのりうつって、
捨てられた男に復讐をしに行く話」(同上)です。
 

「マネキン少女」は日本を訪れた香港の宝石商人に愛される
日本女性の話で、「香港に死す」は香港の青年から誘われて
香港に移り、かの地で謎を秘めて死ぬ日本人女性の話です。
 

ここに収録されている作品も香港、シンガポール、中国大陸、日本と
アジアの各地が舞台になっています。