「風俗も習慣も違う台湾の名望家に嫁入りした華子は、
台湾の服を着、台湾語を覚え、
姑の纏足の足を洗う手伝いまでやり、
大家族の中にとけ込んで台湾人になったが、
日本人の嫁をもらうことを心よく思わなかった姑が
息子に妾を持つことをすすめたので、我慢ならなくなって、
とうとう離婚を決心した。
 

しかし、舅は離婚に反対し、
孫の光雄を学習院に入学させる口実で
東京に別居することをすすめた。
東京に移住した華子はどうしても離婚したいと決心し、
東大に穂積教授を訪問して事情を打ち明けた。

穂積博士は、『たいへんなことになった。
台湾の籍に無理矢理言えることは、
台湾総督の力でできたかもしれないが、
元へ戻すことは帝国議会の承認を得なければならない。
あなたは台湾で分戸して独立の籍を持つより他ないでしょう』
と言った。

かくして台湾籍の日本人女性李華子が誕生した。

意気消沈している娘を見て
母親のアキが気晴らしの旅に出かけることをすすめた。

東京駅で汽車に乗り込んだ華子は
同じ一等車に乗り込んだ菊池寛と知り合いになり、
とうとうこの有名な小説家の恋人になった。

菊池寛の恋人になった李華子は
東京で台湾料理店味仙居のママをしていたが、
満鉄が国の世論を喚起するために菊池らを招待したので、
菊池に連れられて大連(現旅大市)、
満州(現中国東北部)の旅行に出かけた。

大連で彼女は土肥原賢二、板垣征四郎らと知り合いになり、
やがて土肥原に乞われて奉天に移り、
そこで馬占山に同情し、叛旗をひるがえして
北満からシベリアに逃げる馬将軍を
黒竜江のほとりまで送っていく。
 

奉天へ戻った彼女は、小白龍という馬賊の大将と
知り合いになり、満州国の治安がかたまるにつれて、
関東軍が馬賊を邪魔者扱いしはじめたので
6万5千人の馬賊の華北大移動の世話をして、
北京へ移動した。

そこで同じく関東軍から邪魔者扱いされはじめた
満鉄の十河信二に頼まれて、
大連から翼東の無防備地帯への密輸船を
往復させて一財産築いた」

(「私のマドンナ」、『食べて儲けて考えて』に収録)