「Qブックス」第1巻として、『固定観念を脱する法』が
昭和57年の3月に刊行されました。

この本は「選手交替下における個人の財産対策や
経済に対する考え方や商売の心得について
書いた作品を集めた」ものですが、
この本の「まえがき」で邱は
なぜ「固定観念にとらわれてはいけないのか」
と題した一文を掲載しています。
三回に分けて紹介します。

「昭和34、5年、私は小説、随筆、児童読み物など、
長短あわせて10本くらいの連載物を執筆していた。
ほぼ同年代のサラリーマンに比べれば、
世間にも名前は知られているし、収入も多いし、
小説家というものは坐り心地のそう悪くない職業であったから、
『小説家と乞食は3日やったら辞められない』
と私は冗談半分に言った。
しかし、考えることがあって、私はそれを減らし、
株式評論に切り替えた。

株について全くのシロウトだったが、シロウトだったおかげで、
異なった視点から証券市場に斬り込むことができた。
『番付の順序に企業をひいきにするな。未来の番付を予想して、
将来の横暴企業に出世する会社の株を買え』
というスローガンの下に、多くの投資家たちに
“成長株買い”をすすめたのである。

それは、株式投資のクロウトたちにとっては
思いもかけない発想だったので、
株式評論家たちの虚をつくことになり、
また多くの投資家たちの共鳴をかちとって
一世を風靡することになった。

おかげで、私は短時間に株式投資の権威ということになり、
権威というものがいかにいい加減なものであるかを
身をもって体験することになったのである。

権威とは、ひとつのことを長く体験して、
体験を通じて物ごとを判断する人のことであり、
年と共に頭の中が固定観念で一杯につまった人のことである。

私の場合も、はじめはシロウトと侮られたが
20数年もたってみると、知らず知らずのうちに、
その道の権威ということになってしまった。
たまに私が経済雑誌に原稿などを書くと、
巻頭に載っていたりして、知らない人は
『あ、この人は偉いんだなあ』
と感心するかも知れないが、同じ雑誌を私が見ると、
『あ、この世もこれでおしまいなんだなあ』
という具合に見えてしまうのである。

どうしてかというと、世の中は次々と移り変わり、
次々と新しい経済現象、社会現象が起こっているというのに、
権威といわれる人々は定位置に坐ったまま、
古い経験を基準にして物事を判断しようとするからである。
ズレはますますはげしくなって、
的確な判断はいよいよ難しくなってくるのである。」
(『固定観念を脱する法』はじめに)